即席麺誕生物語

 今から5年ほど前、全国の食品関係者や料理人が一堂に集う東京の大商談会に参加したときのことです。
 バイヤーの一人から「五島うどんの麺を茹でる時間は?」と質問され、「6、7分です」と答えると、急に顔色が変わって、「厨房の中で7分も茹でる時間なんてないよ。半分に短縮できないと、料亭ではとても使えない」と、けんもほろろの言葉が返ってきました。


■旅館女将のひと言が即席麺開発を後押し

 五島うどんの伝統「手延べ」製法にこだわる限り、茹でる時間を半分にすることは当時、不可能といわれていました。
 しかし、この7分という手延べの常識の壁を壊さなければ、五島うどんを全国に普及させることは難しいという現実も、一方で突きつけられたのです。
 この難問をクリアすることはできないものか--。麺匠との間で試行錯誤を重ねる挑戦が始まりました。
 いたずらに数年の月日が流れ、半ば諦めかけていたところ、昨年行った上五島の麺職人と老舗旅館女将との座談会で、永田旅館の女将、永田孝子さんが、こんな発言をされました。
 「全国各地で今、毎年のように大きな災害が起こっています。保存食にもなる五島うどんは支援物資にもってこいですが、6、7分茹でる時間がもったいない。被災地の方々がすぐに食べられる五島うどんをなんとしても開発してほしい」

 この女将の熱い思いがふたたび、即席麺の開発に火を付けました。
 それから、およそ一年の研究と試作を経て、わずか3分で食べられる即席麺の試作に成功。通常のうどん麺と比べて、見た目も、味も、何の遜色もない美味しい麺が仕上がりました。
 麺職人が長年培ってきた技と心で、不可能を可能にした奇跡の瞬間でした。
 最初から開発に携わってきた島の麺匠、浜崎祥一郎が、これまでの苦心を振り返ります。
 「手延べ麺の茹で時間の短縮は、先行きの見通せない難問でした。原料の小麦粉の配合を変えたり、麺の太さを細くしたりしながら、何度も失敗を繰り返しました。しかし、常に状態に目を配るなど、より細やかな作業を行い、通常の五島うどんの倍の手間隙をかけることで、難題解決の糸口を見出すことができました」
 私どもの挑戦は、特殊製法の特許を国内で唯一取得する秋田県の加工会社との御縁に恵まれ、今冬、商品化にこぎ着けることができました。

 この本格即席麺が、全国各地の料亭や食堂の新メニューとして、受験生のここ一番のパワーの源として、日頃料理をしない人でも容易に口にできる簡単料理として、いろんなシチュエーションで活躍し、そして、近年多発する災害など、いざという時の支援物資としても活用されることを願っています。

(2023年11月8日)





1分動画
茹で時間7分の「手延べ」の常識を破る
即席麺誕生物語
不可能を可能にした麺職人の不屈の魂
商品ラインナップ
本格即席「五島手延あごだしうどん」